佐賀地方裁判所 昭和31年(ヨ)46号 判決
債権者
国
右代表者法務大臣
牧野良三
福岡市浜町二二番地
福岡法務局
右指定代理人
訟務部付検事 川本権祐
佐賀市水ケ江町一九九番地の五
佐賀地方法務局
右指定代理人
法務事務官 江原静夫
福岡市大名町三〇〇番地
福岡国税局
右指定代理人
大蔵事務官 北田顕一
福岡市浜町二二番地
福岡法務局
右指定代理人
法務事務官 新盛東太郎
佐賀市大財町一九六番地の七
債務者
佐賀石油株式会社
右代表取締役
橋本常蔵
右当事者間の昭和三十一年(ヨ)第四六号不動産仮差押命令申請事件について当裁判所がなした仮差押決定に対し債務者より異議の申立があつたので次のとおり判決する。
主文
本件につき昭和三十一年五月十六日当裁判所のなした仮差押決定はこれを認可する申請費用は債務者の負担とする。
事実
債権者指定代理人等は主文同旨の判決を求めその理由として申請外佐賀県杵島郡福富村大字福富下分二七七〇番地佐賀石油株式会社(昭和二十九年九月十二日解散)は昭和三十一年三月十五日現在(イ)昭和二十七年分法人税金十九万三千十円(ロ)同法人税過少申告加算税金九千六百五十円(ハ)昭和二十八年度分法人税八万二千五百九十円(ニ)昭和二十七年度分所得税(源泉徴収)金六百六十二円(ホ)昭和二十七年度分、同二十八年度分法人税に対する利子税、延滞加算税金八万九千四百七十七円以上合計金三十七万五千三百八十九円の税金を滞納しているものであるがこれより先右申請外会社は昭和二十八年五月十四日現在に於て既に右(イ)、(ロ)、(ニ)の税金合計金二十万三千三百二十二円の納税義務を負担しており又右(ハ)の税金は同会社が昭和二十八年五月十四日以降休業したので同日迄の所得金額に対するものであるが同会社がその法定の納税義務を負担すべきことは債務者に於ても当然予測していた筈である。然るに右申請外会社は昭和二十八年五月十四日右租税債権のため将来滞納処分により会社財産を差押えられることを慮りこれを免かれるためその全財産である別紙目録記載の土地及その他の財産をその情を知悉する債務者(昭和三十年五月二十九日佐賀米油株式会社の商号を現在の佐賀石油株式会社の商号に変更す)に合計金百二十万九百四十三円四十七銭で譲渡したので債権者は前記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の税金合計二十八万五千九百十二円の租税債権徴収のため右譲渡行為の取消並にその支払請求訴訟を提起準備中であるが債務者が別紙目録記載中の土地を他に譲渡又は隠匿するやも知れないので債権者が勝訴判決を受けた場合の執行保全のため本訴申請に及んだと述べ疏明として疏甲第一号証の一、二同第二号証の一、二同第三号証を提出し証人佐伯嘉美の尋問を求め疏乙第一、二号証の成立を認めた。
債務者は主文掲記の仮差押決定はこれを取消しその仮差押命令申請は却下するとの判決を求めその理由として債権者主張の申請外会社は昭和二十五年分及同二十六年度の租税徴収年度に於て所轄武雄税務署に赴き昭和二十四年以降昭和二十六年迄三カ年間の不良売掛代金百七十万円を認容して貰い度い旨相談したが手続不備のため認容せられなかつたが右不良売掛代百七十万円を総売掛代金より控除せられれば九十九万円相当額の欠損となるので昭和二十七年度の税金は賦課せられないものと信じ昭和二十八年五月十四日別紙目録記載中の土地を債務者に譲渡したのである。又債務者も昭和二十八年度の税額二十万二千六百六十円は同年六月三十日その決定告知を受けて始めてこれを知つたのであつて申請外会社が租税債権の徴収を免かれるため右不動産を債務者に譲渡するものであることは知らなかつたのであると述べ疏明として疏乙第一、二号証を提出し疏甲第一号証の二の成立を否認しその余の疏甲号証の成立を認めた。
理由
成立に争のない疏甲第一号証の一、同第三号証の各記載を総合すれば債権者は昭和二十八年五月十四日当時申請外の佐賀県杵島郡福富村大字福富所在佐賀石油株式会社に対し債権者主張の如き(イ)(ロ)(ニ)の昭和二十七年の事業年度の法人税、同加算税、所得税(源泉徴収)合計金二十万三千三百二十二円、又債権者主張の如き(ハ)の昭和二十八年度分法人税八万二千五百九十円以上合計金二十八万五千九百十二円の租税債権を有し昭和三十一年三月五日現在未だ租税債権が滞納せられている事実が疏明せられる。ところが前記申請外会社は昭和二十八年五月十四日その全会社財産たる別紙目録記載の資産を代金百二十万九百四十三円四十七銭で佐賀米油株式会社に譲渡し同会社は昭和三十年五月二十九日債務者たる佐賀石油株式会社に商号を変更し前記申請外会社の代表取締役石川十四郎が債務者たる佐賀石油株式会社の監査役に就任したことが成立に争のない疏乙第一号、疏甲第二号証の一、二同第三号証の各記載によつて疏明することができる。そして債権者が前記申請外会社の財産譲渡行為を前記租税債権の詐害行為に該るものとして債務者を相手取りこれが取消訴訟を提起していることは当裁判所に顕著であるのでこのことから考えれば債権者が本件仮差押申請当時は右の訴訟提起準備中であることが窺われ更に前記疏明事実に証人佐伯嘉美の証言を合せ考えれば債権者の右租税債権保全の為債務者が前記申請外会社より譲受けたる別紙目録記載中の土地に付仮差押をして置くべき必要性も亦窺い知ることができる。債務者は債権者が前記申請外会社に対し債権者主張の如き租税債権を有していないと考え善意で申請外会社の前記土地を譲受けたのであると主張するけれども疏乙第一、二号証の疏明を以ては未だ右主張事実を疏明することはできないから異議の申立は採用することはできない。従つて本件仮差押決定は正当であつてこれを認可することとし申請費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 原田一隆)
資産目録
〈省略〉